かつて渋谷・松涛は、都内で屈指の高級住宅街だった。
気品と威厳がみごとに調和し、落ち着いた雰囲気を醸し出していた。
私はそれに憧れ、移り住んだ経緯がある。月々の家賃の支払いは大変だったが、それに見合った満足感が得られた。
松涛は略字で、「松濤」。
この「濤」は波である。松の枝と葉が、あたかも波が重なるように居並んでいたのだろう。
往時の街並みが目に浮かぶではないか…。
ところが、バブル期に若者が住宅街に入り込むようになり、それを見込んでおしゃれな店がつくられた。
そして、それがさらに若者を住宅街に呼び寄せる…。
また、松涛1丁目は、神山町と神泉町に挟まれている。
両隣は、町名に「神」が付くので、宗教団体が多かった。
それが松涛まで増えてきた。バブル後に広大な屋敷(敷地)が遺産相続で売り出され、金のある新興宗教などが買った。
閑静な住宅街が、喧騒の繁華街に侵食されていく…。
私が、住み慣れた松涛と決別し、港北ニュータウンに転居した最大の理由である。
きのうの爆発事故は、その松涛に建てられた「高級スパ」で起こった。イメージの打ち出しに、手っ取り早かったからか。
松涛は、様変わり―。
とはいえ、地元を愛し、地元を離れられない人たちは大勢残っている。
昔からの住民が惨事に巻き込まれなかったことが、唯一の救いといえよう。

Copyright ©2007 by Sou Wada

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