テレビをつけ、チャンネルを回す…。
そうか、きょうは北京五輪の代表選考会だった。
数々のドラマを生んできた「東京国際女子マラソン」。
レースは、すでに終盤。
ベッドで不甲斐なく横たわる私の前を、アテネ五輪のゴールドメダリスト、野口みずきが飛ぶように走っている。
小さな体を目一杯使った、手足が千切れんばかりのフォーム。
何という不細工!
気迫と力感がみなぎる。
そして、大会新記録でゴールテープを切った。
直前でサングラスを外すと、そこに会心の笑みがあった。
ずいぶん余裕があるなぁ…。
ところが、勝利者インタビューで、「みんな凄い調子がいいって聞いていたんで、凄い怖かったです」と口を開いた。
…負けず嫌いの塊のようなこの人にして、戦うことは怖かったのだ。
「渋井陽子との事実上の一騎打ち」と言われたこのレース。
確かに野口みずきは、最大のライバルを上回った。
しかし、それ以上に、自分との戦いに勝ったのではないか。
だれしも抱える「恐怖心」―。
それと本気で向かい合う人など、ほとんどいない。
まして真っ向から闘う人は…。
逃げ出したくなるような恐怖心に挑み、それに打ち克った人だけが大勢に感動を与えたり、世間で成功を収めたりする。
体の痛み一つにさえ負けてしまう自分が悲しくなった。
自分と戦わない人は、自分に勝つことがない。
私の脳裏に、マザー・テレサの柔和な表情が浮かんできた。

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