「雇用確保」の大合唱が起こっている。
そう叫ぶのは、国民だけでない。
マスコミも評論家も、そして政治家も…。
「雇用」があるから「解雇」があるのに、後者を寄ってたかって「けしからん」と決めつける風潮は、あまりにも危うい。
経営の息の根を止めるつもりか?
「雇用」をなくせば「解雇」をなくせるが、そうなっては元も子もない。

米国の金融危機を発端とする現下の経済情勢を「不況」と見なすか、「(経済)災害」と捉えるかにより、対応はまったく違ってくる。
確かに景気が最悪なことは疑う余地がない。
しかし、私は「災害」と捉えるべきだと思う。
実際、個人も企業も大津波に一気に飲み込まれた。
そう考えないと、日本経済を最悪の状態に陥れる。

いま必要なのは、とくに深刻な損害を被った被災者の支援であろう。
例えば、突然の雇用止めやリストラに合った人たちへ救いの手を差し伸べる。
社会全体で彼らの生活を支えること!
これが基本線。
重大な痛手を受けた企業についても同様。

個人の救済について述べれば、時限的な措置として「被災者支援」に取り組むところを、ぎりぎりの企業に対して「雇用確保」を強いるのは禍根を残す。
そもそも雇用確保は、すでに職についている人を守るという発想である。
既得権の保証。
しかし、もっと大切なのは、多くの人が職につけるようにすること。

日本の起業率は冴えない。
それは経済の衰退に確実につながる。
国民の圧倒的大多数は、だれかに会社をつくってもらい、そこで働きたいと考えている。
なぜなら、起業のリスクが大きく、それを負いたくない。
このうえ雇用確保の重しを押し付けたらどうなるか、目に見えている。
しかも、日本はトレンドとして雇用縮小が進みそう。
本質的な問題は、雇用確保でなく「雇用創出」である。

いまや内需型の企業でさえ、海外のライバルと戦っている。
国際競争力を保てなければ、あっという間に倒産に追い込まれる。
生き残りには世界最適を目指さざるをえない。
世の中が雇用確保へ突き進むと近い将来、企業の減少や産業の空洞化を招き、かならず「雇用縮小」をもたらす。
それ以前に、企業は人を採ることに極端に憶病になる。
これでは自ら働く場を狭めてしまう。

政治家は、当面は被災者支援に全力を傾注しつつ、並行して明確なビジョンのもとに中長期の雇用創出を推進して当然。
国民が豊かで幸せな暮らしを送れるように…。
同情論にカジ取りが乱されるようだと、日本の凋落は決定的になる。
政権交代が取り沙汰されるなか、衆院選での票集めだけを念頭に「雇用確保」と叫んでいるとしか思えない。
自民党も民主党もまともな政治家がいない。

Copyright (c)2009 by Sou Wada

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