プロ講師への道は、人それぞれだろう。
が、たいてい第一歩は「本を出す」ことである。
出版界は環境の変化により深刻なダメージを受けており、本が売れなくなった。
それでも依然として、一定の影響力は保っている。
多くの人に自分の存在と主張を知ってもらううえで、本は手っ取り早い。

21世紀に入り、本を出すことは簡単でなくなった。
私は1990年代初頭、40歳を過ぎた頃に日本経済新聞社、ダイヤモンド社、日本実業出版社、サンマーク出版、産能大学出版部の5社に営業をかけた。
そして、5社から執筆の機会を受託し、拍子抜けした。
凡人が本を出すのは至難と覚悟していたからだ。
いまは出版社が慎重で、実績がないと厳しくなっている。

ところで、本を出すのに頭はいらない。
他人から得た知識でなく、自分でつかんだ知恵を持っていればよい。
本やセミナーで知ったことを書くと「著作権侵害」に問われるから当然だろう。
とくにビジネス書はその傾向が強い。

ゆえに、勉強を積んで本を出そうとするのは、もっとも遠回りなやり方である。
そこにたどり着くまでに人生が終わってしまう。

例えば、営業本を出すには、営業の勉強を行うのでなく、営業の体験を積む。
そして、優れた結果を残すことが条件である。

なお、本を出すには、出版社へ営業をかける。
相手は歓迎してくれないので、こちらに度胸と粘り強さが必須となる。
机に座って待っていても、執筆の依頼は寄せられない。

講師になるきっかけとして本を出すのは有効だ。
しかし、例えば営業関連本は大量に出版される。
私は正確に把握していないが、10年前は3百冊、現在は百冊くらいでなかろうか。

本を出すのはかなり大変になった。
それも、著者の買い上げがなく、10パーセントの印税を受け取る条件では…。

本を出したら、それを携えてセミナー会社に営業をかける。
これが狭き門である。
主要なセミナー会社で講師を務められる人は、本を出した人の3パーセントに満たない。
例えば、都市銀行系のシンクタンクが主催する1日3万円前後の受講料が設定されたセミナーでは1パーセントに満たないのでないか。
年間1人?
無料や数千円のセミナーなら話は別だ。
しかし、それでは講師料が数万円に留まる。
講師一本で食べていけない。

懸命な営業努力が実り、講師のチャンスをつかんだとしよう。
ビジネスとして開催しているセミナー会社では、それなりの集客が得られないと、二度とお呼びがかからない。
また、採算ラインに乗っていたとしても、受講者の満足度が低いと、二度とお呼びがかからない。
セミナー会社は“客離れ”が起こるのが一番困るからだ。

が、講師にとりもっとも怖いのは、会場の後ろで事務局として立ち会いながら受講している主催者である。
彼らは無数の講師を知っており、横並びでシビアに評価を下せる。
講師のレベルも講義のレベルも簡単に見抜く。
主催者の眼鏡に適わないと、二度とお呼びがかからない。

新人の講師に「敗者復活戦」はない。
一発勝負だ。
ここが分かっていない人が多すぎる。
プロ講師になるには、最初の壁をどうしても乗り越えなくてならない。

実は、講師の大多数は1回で主催者と縁が切れる。
2〜3回つきあえればよい。
10回つきあえれば凄い。
長期で幾度もつきあえれば立派だ。
それは本を出した千人のうちの1〜3人でないか。
あちこちで名前を見かける講師は実力が図抜けている。
まして、同じ演題を繰り返せる講師は化けものだ。
自分を褒めることになり気が引けるが、これは事実である。

私の「提案営業セミナー」はシンクタンクやマスコミ、経済団体などで5百日の開催実績がある。
私の収入源、企業研修を除外しての数字だ。
公開セミナーの受講者と主催者に感謝したい。

講師のチャンスをつかむのは自分だが、それを続けられるかどうかを決めるのは自分でない。
主催者でもない。
顧客なのである。

日本を代表するビジネスセミナーの常連講師、しかもコンスタントに集客が得られる講師は昨今、営業分野では数名くらいに減った。
絶望的だから、プロ講師の仕事は楽しい。
地獄をくぐり抜けてほしい。

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「和田創 プロ講師養成塾」シリーズは以下のとおり。

⇒2010年5月11日「次世代が育たない…プロ講師養成塾」はこちら。

⇒2010年5月12日「セミナーアンケート…プロ講師の常識」はこちら。

⇒2010年5月13日「プロ講師の心得…講義の内容と表現の評価」はこちら。

⇒2010年5月14日「教えたら育たない…教育を解釈する」はこちら。

⇒2010年5月27日「講師とは自己否定である…プロ養成塾」はこちら。

⇒2010年6月16日「講師にとっての顧客とは?…プロ養成塾」はこちら。

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