私は従業員百名ほどの優良企業で、全社改革により成長持続を叶えるプロジェクトを数カ月指導してきた。
毎月1回、1泊2日の合宿スタイル。

10カ年長期経営戦略&施策の策定―。
施策といっても長期にわたる実施を想定しており、企業文化や組織風土の刷新を目指している。
望ましい制度や好ましい慣行として、社員や職場にどこまで根づかせられるかがキモ。

こうした戦略系のほかに、四半世紀通用する長期経営ビジョンの構築―。
具体的には、世の中への使命(ミッション)、顧客への提供価値(バリュー)、自社への戒め(クレド)を定める。
それぞれ、社是、社訓、行動指針と呼ぶ。

戦略とクレドが備わり、かつそれらをやり抜いたとき、ようやく“勝ち残り”を成し遂げられる。
周知徹底は当然として(実際にはわずか)、重視すべきは唱和(実際にはまれ)。
それを掲げることにほとんど意味はなく、全役員・全社員が心を一つにして唱えることではじめて有効となる。
これに気づいている経営トップは少ない。

プロジェクトのもう一つの大きな狙いは、将来の経営幹部の養成―。
この場を「リーダー会議」と称するゆえん。
メンバーは20代を含む若手6名。
精鋭ばかり。
ただし、経営スタッフや総務スタッフ、マーケティングスタッフはゼロ。
皆、一般社員として現場業務に携わっている。
技術系サービススタッフと営業スタッフのみ。
このなかから2〜4名の取締役、1〜2名の社長が生まれなければ、この会社は消えていよう。
私の責任は重大である。
文字どおり「社運」がかかっている。

                       ◇

さて、プロジェクトも終わりに近づいたというのに、経営戦略&施策の出来が芳しくない。
素人ばかりだから当然といえなくもないが、とりわけ後者がまったくダメ。
年明けに全社発表会を催せるか、とても心配。

時間をかけているのに明確な計画へ落とし込めない。
考える手続き(工程)がぐらぐらしているからだ。
そこから生まれたものは「考え」のレベルに達しない。
何とかしなければ…。

やむをえず、私の著作を読んでもらうことにした。念のため述べれば、印税がほしいわけでない。
かなり古い本だが、彼らが課題をこなすうえで参考になる。
和田創「企画書のまとめ方」
もとはビジネスユースワープロでナンバーワンシェアの東芝ルポのアプリケーションソフトとして私が開発した「企画書上手」に添付された2百ページ強の解説マニュアル。
これを後日、産能大学出版部から書店での市販本として刊行してもらった。

若手6名を率いる委員長に「費用がかかりますが、私の本を買い与えてください。でも、アマゾンなら古本が百5十円くらいから出ていると思います」とお願いした。
私はその場でインターネットに接続した。
すると、やはり新本と並んで古本が見つかった。よし、8冊。
あれれ…。1円、1円、1円…。
価格はそれぞれの出品者が本の需給と状態を考慮して独自に決める。
3社が1円、残りも百円台など。

委員長がすぐに7冊申し込み。
一番高いものが3百円台。
後日、出品者からバラバラに届く。
「全部で3千円ちょっとでした」。
送料がだいたい3百5十円だから、これだけで2千5百円弱。
ということは…。

和田創はメンツ丸つぶれ、プライドずたずた。
「おれの本は1円かよう」。
執筆が地獄で、新宿・河田町の東京女子医科大学病院に緊急入院した、いわくつきのマニュアル(著書)。
実際、大量喀血により命を落としかけた。
情けない…。

出版社と書店がつぶれるわけである。
著者がやっていけないわけである。
和田創1円也。

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