私は、山田洋次監督の映画作品をほとんど観たことがなかった。
たいてい脚本も本人。
渥美清主演の「男はつらいよ」シリーズを代表作と呼ぶべきかどうかも分からない。
通称「寅さん」シリーズは松竹のドル箱だった。

私は昔、おそらくテレビで「幸福(しあわせ)の黄色いハンカチ」を観た。
そして、かなり引っかかった。
公開時の評判が高く、その年の日本の映画賞を総なめにしたはずだ。

山田洋次監督は市井の人、ときに世の中からはぐれた者の平凡な日常とささやかな幸福をユーモアとペーソスを交えながら丁寧に描く。
「幸福の黄色いハンカチ」の温かさは十分に伝わってきたが、それ以上に作為が気になり、素直に楽しめなかった。

最近、「遥かなる山の呼び声」を観て、これは日本映画の名作でないかと思った。
2つの作品に緩やかな文脈を感じたが、こちらのほうが断然いい。
人間の一途さ、人生の切なさがよく描かれている。
そこで、両者の関係をウィキペディアで調べてみた。

構想は「遥かなる山の呼び声」が先、「幸福の黄色いハンカチ」が後である。
しかし、制作は「幸福の黄色いハンカチ」が1977年、「遥かなる山の呼び声」が1980年である。
なるほど・・・。

「遥かなる山の呼び声」では、風見民子(倍賞千恵子)が護送中の田島耕作(高倉健)に黄色いハンカチを渡すシーンが最後に置かれている。
これが「幸福の黄色いハンカチ」につながる。

私は、山田洋次監督が「幸福の黄色いハンカチ」で気に入らなかったところをすべて改めて、つくり直したのが「遥かなる山の呼び声」という印象を受けた。
根拠のない推察であり、実際のところはそうでないかもしれない。

ほとんどの監督がいい映画をつくるためにベストを尽くしていることは、私も承知している。
そのうえで述べれば、監督自身は「幸福の黄色いハンカチ」の出来をどう考えていたのだろう。
これを山田洋次の最高傑作とする声もある。

なお、「遙かなる山の呼び声」というタイトルは映画「シェーン」の主題曲名らしい。
作品の着想も「シェーン」から得ているようだ。
また、「遙かなる山の呼び声」はいわゆる「民子三部作」であり、1970年の「家族」、1972年の「故郷」、1980年の「遙かなる山の呼び声」となる。

私は「遙かなる山の呼び声」を観て、山田洋次監督の高い評価がようやく腑に落ちた。
独自の世界の完成度が素晴らしい。

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