私は、JR東京駅に隣接した丸の内経営サロン(丸の内トラストタワー本館20階、サーブコープ内)で「個別経営相談」に応じている。
取締役も訪れるが、対象は原則「社長」である。
無料。
こうした相談会はたいてい何らかの業務の受託を目的としているが、私は純粋な恩返し(社会貢献活動)で行っている。
仕事は不要。

経営者の悩みは非常に深く、私が黙って聞いていると際限がない。
それなりに胸の内を吐き出させたうえで、私は諭している。
「この十年、二十年、社会は変わり、経済は変わり、そして市場は変わり、顧客は変わりました。
一昔前と同じような事業を営み、同じような商品をつくり、同じようなやり方で売っていたら、業績が悪くて当たり前でしょう。
どうかシンプルに考えてください」。

私がコンサルタントとして見聞きした範囲では、変わっていない会社は一部の例外を除き、業績低迷どころか規模縮小に陥っている。
じり貧を免れない。

今後はさらに内需縮小が進み、景気後退が繰り返されるだろう。
会社が生き残れるかどうかは、経営者の力量次第である。

私は、変えられない社長は無能だと思う。
そして、変えるために必須となるのが、マネジメントやマーケティングに関わる「企画力」である。

以下に、「社長が行うべき企画とは何か?」と題する2007年8月13日のブログを収める。
3年前の原稿だ。
思い切って手を加えた。

                      ◇◆◇

環境が激変する今日、社長の「企画力」が企業の命運を分ける。
とくに一代で会社を創りあげたオーナー社長が次世代へバトンを渡す前に行うべきは、これまでの事業とそのやり方を陳腐化することに尽きる。
そう、過去へ押し遣ってしまう。
「功成り名遂ぐ」創業者にとり、会社と自分は一体だ。
ゆえに、それは己に「NO」を突き付けることになる。
愉快なはずがない。

しかし、それをためらうなら、他社が陳腐化してかかる。
それも、これまでの競合に留まらない。
IT革新につれ、思いも寄らぬライバルが現れる。

自社でそれを断行すると、陳腐化した売り上げと陳腐化された売り上げの両方が得られる。
したがって、業績は何とか維持できる。
経営もしばらくは安泰である。
こうしたことは、創業者に限らず、すべての社長が知っておかなければならない。

例えば、クルマは長らく国内の新車販売が落ち込んでいる。
トヨタは大きなリスクを冒してまで「レクサス」ブランドの導入に踏み切った。
賭け!

トヨタが戦後打ち込んだのは「いつかはクラウン。」という名作コピーに象徴されるように、「カローラ⇒コロナ⇒マーク�侠優�ラウン」というヒエラルキーを構築することだった。
右肩上がりの経済のもと、生活者は商品の購入自体を目的とし、所有価値を第一にしていた。
その頂点に位置づけられたのが、クラウンである。

レクサスブランドの導入はヒエラルキーの崩壊、したがってトヨタブランドの弱体化を招きかねない。
トヨタは右肩下がりの経済のもと、命懸けの決断を下した。
私は、横綱の「自己否定」を知らない。
クレージーとさえいえよう。
それだけ危機感が強かった。

それによりクラウンはかつての輝きが色褪せ、トヨタブランドが陳腐化されたことは否めない。
しかし、トヨタはそれと引き換えに高級車市場というご褒美を手にしつつある。
他社に先行されると、陳腐化された売り上げしか残らなかった。

例えば、伝票や帳簿などの紙製品は、次々と登場した会計ソフトに陳腐化された。
「勘定奉行」や「大蔵大臣」など…。
これまでの業界はパイが縮小したと嘆いた。
そうでなく、パイは爆発的に拡大した。

顧客はもともと経理処理や会計処理の合理化を買っていた。
ところが、彼らは伝票や帳簿を買っていると勘違いしていた。
もはや商品の購入は目的でなく手段にすぎない。
いまどき商品を買う顧客はいない。
かならず業務上の効用や経営上の目的を買っている。
彼らは危機感が乏しく、伝票・帳簿販売の自己否定が遅れた。
顧客への貢献において、新たに出現した競合(ライバル)が上回ったのだ。
これは、他社が既存の事業や商品を陳腐化しただけでなく、巨大な新市場を創出したケースである。

例えば、旅行の窓口販売はネット販売に陳腐化された。
膨大な時間と費用をかけて整備してきた店舗網が、収益の足かせになる。
最大手のJTBを筆頭に、旅行代理店はほとんどが業績下落に苦しむ。
店舗の閉鎖と従業員の削減が避けられず、業績は極端な先細りになる。
経営が崖っぷちに追い込まれよう。
彼らは危機感が乏しく、窓口販売の自己否定が遅れた。

結局、凋落傾向から抜け出せない名門企業は、この陳腐化を先延ばししてきた。
概して呑気…。
リストラで一時的に帳尻合わせを行ったとしても、すなわち「縮小均衡」では本質的な解決を図れない。
経営層が成功体験の呪縛から逃れられない企業はつぶれるか飲み込まれよう。

なお、絶大な権力を持つオーナー社長は、率先して自社の陳腐化を推し進めなければならない。
これまでの事業とそのやり方と決別すること!
社員は、それを進言すると、社長と衝突することが分かっている。
辞める覚悟を持たないと、絶対に切り出せない。

以上、こうしたビジネスモデルやマーケティングの改革・革新は、スピードが命となる。
他社にいったん陳腐化されると、それを追いかけるのは絶望的である。
先行利益は非常に大きい。

社長が行うべき企画とは、自社を陳腐化するそれなのだ。
壮絶なる自己否定にほかならない。

変われない会社は末路が見えている。
トップの企画力が鍵を握る。

                      ◇◆◇

最初の原稿は以下のとおり。

⇒2007年8月13日「社長が行うべき企画とは何か?」はこちら。

◆書き加え1

私は『変革リーダーの企画力』と題する著作を発表したい。
このブログの記事、そして日経BP社での連載記事を編集加工して1冊分の原稿とする。
ようやく百ページ近くをまとめ終えたところ…。
完成はいつ頃か。

Copyright (c)2010 by Sou Wada

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