既存の統計より早く安く
エコノミストの読みより確かに

不況の到来がピンと来ない

私はおもに社長を対象とした「個別経営相談」に応じています。
そのなかで感じるのは、景気の先行きに対する関心の高さです。
おそらく社員も気にしながら働き、国民も気にしながら暮らしています。
(景気が悪いと現政権に不満が高まるというのも世界各国でおおよそ共通して見られる現象です。)

私が社長からしばしば聞かされるのは「2020年東京五輪」以降の不安や心配です。
しかし、2016年や2017年から景気悪化を前提にして対策を講じている企業はきわめて少数です。
いまのことで精一杯ということもありますが、不況の到来がピンと来ないというのが最大の理由のようです。
防災対策や減災対策もそうですが、いつ発生するか分からない地震に対して準備を済ませている企業は決して多くありません。

実感に近い形で景気を展望できるようになると経営の助けになり、危機管理を行いやすくなります。

BDとDLが景気予測を支える

さて、この景気を「AI(人工知能)」を用いて読み解こうとする動きが加速しています。
これは人間の生成情報や膨大な事実情報などの「ビッグデータ(BD)」の解析が前提となります。
生成情報とは、例えば「ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)」における情報です。
ツイッターでのつぶやきは一個人の感情や感慨、あるいは暇つぶしにすぎません。
フェイスブックで発せられる情報、ブログに綴られる情報も同じようなものです。
しかし、それが全世界となると、ツイートだけでも1日数億に達します。
まして、例えば衛星や街角の映像情報、さまざまな消費情報などの事実情報はいったいどのくらいの量に達するのか想像もつきません。

AIは人間が見落とす膨大なデータ、人手で収集しきれない膨大なデータを解析できることが最大の強みとなります。
しかも、そのような景気の予想を「ディープラーニング(DL)」により実態と照らし合わせながらノウハウを蓄積していきます。
いわゆる「自己学習」です。

経産省が3つの経済指標を公開

これに着目した経済産業省は野村証券などに開発を委託した3つの新しい経済指標(景気指標)を2017年7月から同省のウェブサイトで試験的に公開しています。
10月末まで意見を募集し、改善を施して2018年1月に再公表します。
現行の統計は情報収集から公表まで時間がかかりますが、AIとビッグデータを用いることで期間を大幅に縮められます。
調査対象のサンプル数もアンケートの比でありません。

1 SNS×AI 鉱工業生産予測指数
「SNS×AI 鉱工業生産予測指数」は、AIが相関性の高い数十のキーワードを含むつぶやきを自動的に抽出します。
そのうえで為替や株価の変動なども加味して指数化します。
笑い話みたいですが、予測値と実測値の相違を調べたところ、AIはエコノミストなどよりも信頼を置けるようです。
しかも、従来の速報値よりも1か月ほど早く出せるというから驚きです。

2 SNS×AI 景況感指数
「SNS×AI 景況感指数」は、AIがツイートやブログから仕事などに関する書き込みを自動的に抽出して指数化します。

3 POS 家電量販店動向指標
「POS 家電量販店動向指標」は、調査会社のGfKジャパンが開発しました。
家電量販店の「POS(販売時点情報管理)データ」から販売動向を日次で指数化します。

消費トレンドと画像解析
ほかに、「電子商取引(EC)」の決済に用いられるクレジットカードに関するデータにより、すそ野の広い個人消費のトレンドをつかめます。

さらに、「人工衛星」が撮影した画像を分析することで景気の変動をつかめます。
例えば、原油の備蓄量の増減につれて貯蔵タンクの屋根の位置が上下します。
大型ショッピングセンターの駐車場の埋まり具合で売上高が上下します。

政治や金融政策などの要人の表情にも経済・金融政策などの変更の決意が滲み出ます。
自分の顔や仕草まで分析されるわけです。
たまりません。

もう一つ、リクルートキャリアは自社の支援サービスを利用して転職する年間3〜4万人の賃金の変化を景気の先行きを占う指標として提示します。

AI景気予測の限界と精度向上

AIはビッグデータの解析により現時点の趨勢を明らかにすることが中心になります。
景況感の変化や動向を延長して景気を予想するレベルに留まります。
長期どころか中期を見通すのも困難です。

しかし、経済産業省はこれまでに述べた企業が保有するデータ、ネットに流布するデータなどを活用し、既存の公的統計を補完していく方針に変わりありません。
AI景気予測には限界がありますが、ディープラーニングの機能などにより改良を積み重ねることで「精度」が徐々に高まります。
実用レベルに達するのは時間の問題です。

すでに存在する情報を使って費用を抑えながら、より早く公表できる統計の時代が到来しようとしています。
こうした経済指標には日銀の黒田東彦総裁も注視しているようです。

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