プロ野球に「フリーエージェント(FA)」という制度がある。
私は気になったのでウィキペディアで調べてみた。
「フリーエージェントとは、いずれの球団とも選手契約を締結できる権利を持つ選手のこと。選手はFA宣言したうえで移籍せずに所属球団と契約することもできる。」とあった。

今シーズンは主力クラスの選手にFA宣言が目立った。
オリックスの糸井嘉男外野手(35)、西武の岸孝之投手(31)、ソフトバンクの森福允彦投手(30)、日本ハムの陽岱鋼外野手(29)、DeNAの山口俊投手(29)など。

選手は「FA宣言」を行うときに涙を流すことがある。
チームへの愛情と感謝を重んじるか、それともプロとしての待遇と報酬を重んじるか。
両者の間で気持ちが激しく揺れ動く。
自分を育ててくれたスタッフ、ともに戦ってきたチームメイト、自分を支えてくれたファンのことなどが頭に思い浮かぶ。
が、それは涙の原因のすべてでない。
宣言に踏み切るまでの苦悩の大きさが頭をよぎることも原因だろう。
要は、それくらい決断自体がつらかった。

FAは、選手の移籍がより自由になることがプロ野球の活性化につながるとの考えに基づき、選手会が勝ち取った権利である。
トレードは、球団同士のニーズが合致しなければ成り立たない。
また、球団から選手への一方的な通告により行われる。
FAでは、選手が自らの意思や希望に沿って他球団に移籍する道が開かれる。

時代が変わっても、日本人はいまだに「帰属意識」が強い。
努力を積み重ねて取得した権利を行使するだけなので選手の側にやましいことは何もない。
しかし、球団の側は宣言という“踏み絵”を置くことで、移籍を「裏切り行為」と映るように仕組んだ。
移籍決定時でなくFA宣言時の涙は、その目論見が成功した証拠である。

FA宣言は他球団の評価も聞いてみたいという意思表示にすぎない。
が、選手の側は宣言のハードルを乗り越えなくてならない。
当然の権利を行使する自分が「悪者」と見なされるのがつらいのだ。
選手の涙を偽善と責めるのは間違い。

FAは一定の条件を満たした選手の権利であり、球団の権利でない。
なのに、いったん宣言を行うと残留を認めない方針を表明している球団さえある。
選手の権利行使への不当な圧力といえる。
これではFA制度の趣旨にも反する。

実情は、毎年60〜70人の選手がFAの権利を取得しているにもかかわらず、行使する選手は9人程度に留まる。
最終的に移籍する選手はさらに少なく、4人程度。
つまり、有資格者の1割に満たない。
FAは、選手が宣言を行わなければならないところに最大の問題がある。
経営サイドの論理で設けた障壁を取っ払うのが先決だろう。

権利を取得したすべての選手が所定の期日にFAとして告知される。
所属球団も含めて、自分に関心を寄せるすべての球団と交渉できる。
そして、自分がもっとも行きたい球団と契約する。
むろん、愛着の強いこれまでの球団と再契約するのもよい。
こうした交渉をマスコミへの対応を含めて代理人が仕切り、選手は所属球団が決まってから会見を開く。
ならば、チームを離れるかどうか分からない時点で涙を流すこともなくなる。

職業人にとり待遇と報酬は重大で切実である。
いまやサラリーマンとて保障がないに等しい。
が、プロ野球選手はもっと大きなリスクを取っている。
いつけがをしたり調子を崩したりして現役生活が終わりになるかもしれない。
一番いい条件で買ってくれる球団に我が身を委ねるのが自然である。

なお、私自身は、FA宣言を行った同僚に対するチームメイトの発言が気になる。
球団に留まってほしいとか、一緒に野球をやりたいとか・・・。
口にして許されるのは、せいぜい「いないとさみしい」くらい。

同僚のこの先の職業人生を守れるわけでない。
なのに、選手が移籍に縛りをかける。
いかにも村社会の住人という感じがする。

同じ釜の飯を食い、苦楽をともにしてきた仲間なのだから、成り行きを見守るという姿勢が基本だろう。

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